大きな地形を背負う環境住宅

大きな地形を背負う環境住宅

本題に入る前に… 「する派・しない派闘争」の勃発

東日本大震災直後の諸々の社会状況から、「環境配慮型の住宅」にますます興味が募り、今まで取り組んできた建築スタイルと、震災復興の現場で学んだ「コミュニティ支援や合意形成など、中心とした社会的課題と応答した建築」、そして本来的な意味での「環境配慮型の住宅」を、総合した建築や住宅に取り組みたいと考えるようになりました。

しかし、そんな思いが積もる一方で、また同時にそれを躊躇する気持ちも大きくなっていっていました。と言うのも、現在の建築設計業界は、「断熱する派」と「断熱(を考慮)しない派」と分断され、ここに首を突っ込もうものなら、大火傷をするような状況だからです。

「する派(断熱する派)」は数値を追い求め(というか「数値だけを極端に」追い求めている同業者も多くおり)、そのスタイルを批判するもう片方の建築家たちを「しない派(断熱しない派)」と呼んで、ネット上でも集中砲火を浴びせ、大炎上騒ぎを繰り広げています。一方で、「(断熱を考慮)しない派」は、「(断熱)する派」のひとたちを、「数値だけを求めて安心している退屈な専門家」呼ばわりしたりしています。

意見の対立するシンポジウムでもあろうなら、その直後からFacebookやネットで、双方の陣営に分かれて大糾弾大会が始まるような関係が常態化しています。

双方の言い分も分かるのですが、偶然にも、幸運にも、私は両方から距離を置いている(…両陣営からあまり相手にされていないとも言えますが(笑))ので、「どっちも間違っていないんだから、もう少しお互いを尊敬するところから話を始め、互いに敬意を払ったうえで話をしようよ…溜息」と、いつも思っていました。

閑話休題

私たちの業界の内幕はさておき、「もう少し極端でない、『ひとの体感に基づいた環境配慮型住宅』は出来ないものか」と思っていました。と言いますのも、現在の「エコ住宅」の標準的な指標は、「外皮平均熱貫流率 UA値」や「冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)」などの、住宅の外皮性能を数値化したもので、「住宅から熱がどれくらい逃げないか」や「夏にどれだけ熱を取得しないか」だけで快適性を数値化・表示したことになってしまっています。

数値はもちろん大切です。厳しい冬季には、熱を極力失わないように守りを固めるべきですし、厳しい夏にも、極力熱を内側に入れないように配慮するべきです。

しかし、課題なのは、このUA値等の数値の中に、中間期の通風による心地よさや、自然光による体感的な喜び(?)や、眺望を取り入れて気分爽快になる気持ちよさは入っていません。(もちろん、断熱を全く考慮せず死ぬほど寒い住宅は断罪されて当然ですが)数値だけを指標にしてしまうと、こうした身体感覚に基づいた「生物としての気持ちよさ」が、すべて消えてしまっているのではないか。…「しない派」の人たちの言い分はそういう事です。

また、高性能な断熱住宅では、夏でも冬でも窓を閉め切ってエアコンをつけっぱなしで過ごし、換気も24時間換気で賄うのが最も効率的な運用だと言われています。そういう住宅を評して、「しない派」が言うには、「身体的な感覚を重視せず、数値(とエネルギー消費)だけで快適性を謳うのは、どうなのか」ということだと思います。

そういう意味では、ZEH(ゼッチ:ゼロエネルギーハウス)くらいを目標にすればいいのではないかと思っています。「UA値0.6」程度であれば、そんなに驚くほど高スペックではありません。

次いで、小林先生のこの件についての意見を要約して載せておきますと、

外界と完全に遮断できる冷蔵・保温庫のような家ができたとすれば、地域性は失われて、どこに建てても一緒になってしまいます。世界中同じ家でOKなんてつまらないです。その場にいることを楽しまねばダメだと思います。国道4号沿いの景色が、越谷でも、仙台でも一緒で、なんかつまらないのと通じます。

土地には、駅に近いとかいう不動産情報的価値以外にも、その土地に対するクライアントの思い入れがあると思います。どこに住んでも同じ…では無い筈です。

一方、外を感じるなら、「外部環境を良く感じられる = 断熱などいらない」という意見は乱暴です。また、快適な家だと人が弱くなるといった話もありますが、賛同できません。ハワイのような心地いい環境に住んでいる人がみな弱々しいか、というと、否です。

夏は暑く、冬は寒いので、外をあまり感じたくない時もあるはずです。しかし、日本には四季があるので、必ず空調なしで気持ちいい時期が年に2回あります。更に、その前後にちょっと寒くてきりっとする時期や、ちょっと暑くて団扇であおぎたい時期があり、この時期を思い出して、外を感じることのメリットを言うのでしょう。そこは私も大いに賛同します。しかし、外部環境は過酷なのです。且つ、環境面の配慮が不足すれば、建物はそれを助長します。外を感じるために断熱いらないという思想で、実は外より悪い環境を人工的に意図せずつくっている可能性があります。外より過酷だとしたら、それは外を感じることとは違います。

建物の使い手が「内外の連続性の強弱を無段階に調整できたらいいかなぁ」と思っています…これも無茶な話ですが。

現実的には、多分「外部環境とつなげたり切り離したり出来る家が理想」で、切り離すためにはソコソコの断熱・遮熱性能の数字が必要です。即ち数字が素晴らしく良くても構いません。しかし、それだけじゃなくて他にも大事なことがあるだろうと思っています。眺望とか、窓を開けたら気持ちがいいとか、そんなことです。断熱だけ頑張ったのではだめかな…と思います。

数値的性能には、それなりに大きなコストがついてきます。バランスは必要です。しかし、将来、超高性能サッシが汎用化してコストが下がれば、皆、何も言わずに超高性能サッシを使うと思います。その時には窓を大面積にして、窓を開ければ外と一体化し、窓を閉めれば内部で完結できるようになるはずです。

ところで、今現在間違いなく言えるだろうこととして、平均的な断熱性能がまだ低くて、とてもじゃないが内部の環境をうまく維持できるどころじゃない建物が多いのです。よって、断熱を平均よりもずっと推進する立場をとっています。

文責:手島

…私も同意見です。

すいません。少し真面目に話し過ぎました。
 m(__)m

ここまでが、この一軒の住宅と、「エコ住宅」を巡る状況です。
これを踏まえた上で、この一軒の住宅を巡る話を進めます。


プロジェクト全体の大きな取組方針について

これからご紹介するのは『大きな地形を背負う環境住宅』と、大仰なタイトルをつけさせていただいた住宅ですが、少し真面目に、というかかなり本気で、上のような状況を踏まえた上で、「私たちなりの環境建築」に真摯に取組もう、という意義込みで始めています。

私たちなりの「大きな取組方針」は、以下のように考えています。

①目標を明確に設定し、目標を見据えたうえでの数値・性能の追求

現在広まっている「環境建築」や「エコ住宅」は、『猛烈に数値を希求する競争状態・狂騒状態』にあるとの指摘が多くあります。私たちも結果が数値で明示されてしまうとどうしても(漠然と何となく)「数値・性能」を追い求めたくなってしまいます。数値は誰にでも広く理解できる可視化される唯一の性能ですから。しかし建築に設計者が必要な理由は「本当にその数値が必要かどうか」をクライアントと一緒に考え答えを見つけ出すことです。私たちは安易に「数値・性能」だけを追い求めず、その住宅プロジェクトごとに目標を明確にし、クライアントへの説明義務を果たしながら環境住宅に取り組みます。

②独りよがりでない、第一線の研究者との協働に基づく環境建築

環境建築・環境配慮型住宅は、これまでその必要性が声高に叫ばれていましたが、なかなか本格的に取り組まれた事例は多くありませんでした。その理由として「建築設計の実務と環境工学研究との乖離」が挙げられています。その所為もあり「建築家が取り組む環境配慮型建築は『なんちゃって環境建築』だと揶揄されてきました。建築雑誌で「環境建築特集」などと銘打っていても、素人目に見ても分かるような『なんちゃって環境建築』が多く、建築業界でもいつも議論が沸き起こって(炎上して)います。何となく素人的な取り組みを回避するため「第一線の環境工学の研究者」と協働し、最新の知見を取り入れながら、真摯に「環境建築の実現」に取り組み、実際の生活にに反映させます。

③数値には表れない「心地よさや、眺望」などを総合的に考えた「次世代の環境住宅」

「環境住宅」を考えるに際して、断熱性能だけを抜き取って評価する従来の「環境住宅に対する考え方」が、「環境住宅・環境建築」を視野の狭いものにしていると考えています。眺望を取り込んで、気分がリフレッシュできることも住宅における重要な性能ですし、風が通り抜けて季節を感じることも環境住宅の重要な性能だと考えます。また、「昼光利用」し、電気代の節約だけでなく日の光を体で感じることも重要な性能だと考えます。ただ、そういった主張や想いに流されて、数値をおろそかにすることは決してしません。数値は数値で、重要な指標だと考えています。

④客観性に基づいたデータ収集と検証を行い、得たノウハウを広く社会に還元する

必ず、きちんとした客観的検証を行い、解析したデータは広く公表し、そこで得たノウハウも広く社会に共有し還元することを目標とします。また検証に当たっては「第一線の環境工学の研究者」との協働体制の元、独りよがりでない、客観性に基づいた検証を行います。

以上 2019-07-25/27


私たちの取組体制について

さて、さらに話が脱線してしまったので、元に戻しますと…。

また、一般的な私たち建築設計の世界の常識として『熱を利用するのは厄介だ』という感覚がありました。なので、もし「取得した太陽熱利用する住宅」に取り組むのであれば、相応の環境工学的な知識を備えた体制を組みたいと考えていました。

そんな時に偶然に出会うことが出来、意気投合したのが、環境工学研究者である小林光先生(東北大学大学院工学研究科 都市建築学専攻サステナブル環境構成学分野 准教授)でした。彼も、大学に籍を置くとなかなか自分の研究の知識や知見が、実社会に生かされず、「偏ったエコハウスの知識が蔓延している」状況を不満に思っているとのことでした。彼の主張は「温熱環境だけを優先した建築が万能であろうはずはない」とのことでした(それは確かに本当に当然ですよね)。私たちは「良い機会があれば是非一緒にプロジェクトに取組もう」と話をし、その条件として、「こうしたプロジェクトと相性の良いクライアントが見つかること」を掲げていました。環境工学の立場から関わったプロジェクトの経験からして「取り組む住宅の機械的なことを良く理解してくれること」が重要であり、そして何よりも「この取り組み事態を楽しんでくれること」が重要なポイントではないかとのことでした。

趣旨に賛同し、そういうクライアントをずっと待っていたのですが、ようやくその時が来ました。

…というところから、この話は始まります。

2018年に竣工して、ひと冬分のデータが取れ、これから夏の快適性についての検証が始まりますが、検討・検証するべきことが多いので、雑誌連載のように少しづつ、丁寧に書き重ねてゆきたいと思っています。


「で? 数値はどうなんよ?」

本題に入る前に、「する派」の同業者からはすぐに、「で?(数値はどうなんよ?)」と言われそうなので、最初に正直に数値だけ言っておきますと、以下の通りです。

UA値:0.70(W/㎡K)

※外皮平均熱貫流率(UA値)は、従来の熱損失係数(Q値)に変わる指標です。住宅の断熱性能を表し、数値が小さいほど性能が高いことを表しています。各部位から逃げる熱損失を合計し、外皮面積で割って求めます。建物内外温度差を1度としたときに、建物内部から外界へ逃げる単位時間あたりの熱量(換気による熱損失を除く)を、外皮等面積の合計で除した値です。外皮とは、熱的境界になる外壁・床・天井・屋根・窓・ドアなどを指します。

UA値は「H28年省エネ基準」が、仙台で、0.75なので、「基準よりは多少良い」程度の数値です。ちなみに、うちで設計した(している)住宅のUA値を計算してみると、以下のような数字になります。

※上記「仮)太白区都心の住宅」は、四周を住宅に囲まれた立地条件で、プライバシー確保と、「とあるコンセプトの実現」のために窓が少ないため、「UA値0.41」が実現しています。

うちで設計する住宅の標準的な性能は、「平成28年省エネ基準」をクリアする程度と設定しています。断熱については様々な考えがありますが、「平成28年省エネ基準クリア」程度を標準に設定している理由は以下のようなものです。

①経済性とのバランス

断熱材等の工法にも一般的な汎用性の高い工法を用い、サッシュ等開口部の仕様も(トリプル硝子等の高価なものでなく)「アルミ樹脂複合サッシュ+Low-eペアガラス(A12)」程度の一般流通品を使用しています。それよりも更に断熱性能を高めることは出来るのですが、それにはそれなりの工事費が掛ってきます。UA値0.6~0.7程度の数値は、現在の市場状況の中で、当たり前のことを当たり前のようにやれば、普通に実現できる数字であり、特別なコストアップになる仕様ではないと思います。多分「する派」の人たちに言わせれば、その「当たり前のことをやっていない設計者が多すぎる」という事だと思います。

夏と冬・四季の濃淡が激しい日本での、性能上のトータルバランス

UA値0.4を切るような住宅だと、一年中エアコンを低速運転でつけっぱなしにする生活になります。(それでもトータルな光熱費はあまり断熱を気にしていない住宅よりずっと安いのですが)私のような自然愛好派の人間(週末に休みが取れれば(真冬でも必ず)常にひとりで森林浴します)には、どうしても「夏に締め切った部屋で生活する」ことが馴染めません。素直に考えて、「少々気温的に暑くても夏は通風の方が心地よいでしょう」と思ってしまうのですが、数値を求める人たちからすると「それはやせ我慢であり、やせ我慢は健康を害する!」と言われてしまいます…。しかし、日本の気候風土は、「夏は高温多湿であり、冬は寒冷地なみに寒く、中間期は本当に気持ちいい」んだと思います。

しかし、良い数字(UA値)を追及しようとすると、断熱性能上の弱点は開口部(窓やドア)なので、窓やドアを小さくすればするほど、数値上の性能は必ず向上します。そうなると、室内の自然な通風や心地よい自然光による照度が失われてしまいがちです。

ここからは、それぞれの考え方の話になってしまいますが、「おそと好き」な私としては、自然な通風や心地よい自然光を遮ってエアコンを低速運転し続ける住宅が健康住宅だとはどうしても思えないのです。

「平成28年省エネ基準」の概要は、こちらをご覧ください。

以上 2019-07-25/27/28 筆


では、「UA値」とは何なのか?

少々文章ばかりが多いページなので、「自分では絶対に読まないなぁ」と思いつつ、ここで、すこし「数値」について、説明しておきます。私自身「数値」についての知識が乏しいので、あちこちにある「教科書(秋田の西方里見さんの本「最高の断熱・エコハウスをつくる方法」とか、いつも参考にしています…)」をめくりながら、まとめてみます。

そもそも、日本の断熱の基準は世界標準からかなり遅れており、世界的なエコ住宅の潮流から大きく乗り遅れていると言われています。元々基準としてあった「平成4年省エネルギー基準」のレベルが低い、との指摘が多くあり、平成11年に「次世代省エネ基準」が定められ、更に、地球温暖化防止政策として国が「平成28年省エネ基準」という基準をつくりました。

西方さんによれば、そのH28基準を満たしていない住宅が多くあり、また、この基準は「義務化」されていないために「次世代省エネ基準」が主流のままになっており、『「平成28年省エネ基準」こそ、最低基準にするべきだ』と主張しています。

また、その後、『「平成28年省エネ基準」では数値目標が低すぎるのではないか』との声が研究者等から上がり、「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会(HEAT20)」が2009年に発足し、彼らが断熱化の数値目標として「HEAT20 G1 G2」を発表しています。

では、それらの数字はどのようなものか、相対比較してみます…。

※西方里見さんの本「最高の断熱・エコハウスをつくる方法」に分かり易い表があったので、出典を明記して引用します。

断熱性能基準と断熱性能値

この話題の中心である『大きな地形を背負う環境住宅』は、仙台市内のプロジェクトですので、地区区分で言うと「4地域」になります。それぞれの基準ごとに「4地域の基準となる数値」を拾い上げてみると、…

(…しかし「西方設計推奨」は泣けてくるほどの高性能ですね…。)

地域の基準となる数値

こうしてみると「ZEH(ゼッチ:ゼロエネルギーハウス)」を謳っている住宅も大した性能ではないですね(苦笑)。「ZEH+」でさえ…。

また、これらの数字が実際の暖房費にどれくらい影響があるか、ですが、「HEAT20のパンフレット(P16)」によれば、『「HEAT20 G1』で(省エネ基準の家より)30%削減できる』とあります(4地域)。

また、西高さんが「最低基準にするべきだ」と主張する『平成28年省エネルギー基準』が、これまでの「断熱行政」のなかでどの程度の位置づけかをうまくまとめた図が、これまた西方さんの本に出ていたので、出典を明記して掲載します。(下図)

これを見ると、「4地域」では、「旧省エネ基準」が「UA値1.47」で、「H28年基準」は「UA値0.75」なので、外皮性能として倍程度に向上しています。

平成28年省エネ基準の変更点

以上 2019-07-25/27筆

…さて、と言うような基本情報を抑えながら、『大きな地形を背負う環境住宅』について、順番に説明してゆきます。この住宅は、「環境建築」であることを主題に置いていますが、上でも少し触れたように、数値だけを追い求めず、取り組むことになります。

その取り組みのあらましは、順を追って、説明します。

以上 2019-07-25/27筆


「もうすぐ生まれる!」的検討の経緯

住宅(建築)は、数値上の合理性だけでなく、様々な要因によって決まっていきます。

では、この住宅がどのような経緯で、何を考えながらつくり上げられて行ったかを、模型の残骸を辿って振り返ってみます。

クライアントは、「路地にかかる大軒」のオープンハウスに家族みんなで来ていただいたのが、まず最初だと思います。その後、「気に入った土地があるので見て欲しい」との連絡があり、少し変わった敷地だったので、少し考えて住宅の提案をさせてもらうことにしました。

敷地、その他のこと

本当は最初に、もう少し広範囲の1/100敷地模型を作成し検討していたのですが、紛失してしまいました…。すいません。ここにご紹介するのは1/50敷地模型です。しばらくもうすぐ生まれる!をやっていおらず、何となく震災後のバタバタで、ああいう(猛烈にエネルギーの掛かる)ことを再び落ち着いてできることが想像できなかったので、模型の管理も甘くなっていました…。
m(__)m

敷地の状況を簡単に説明しますと…、

「1/50敷地模型」を上から見る

写真の下側が南、上方向が北です。仙台市近郊の小高い丘(小山?)の、北側斜面の中腹に敷地はあります。この写真の上側に遠く仙台市中心部の景色が臨めます。敷地周囲は擁壁に囲まれており南側(上側)隣地と、右側(東側)隣地からは、3m程度地盤レベルが上がっています。敷地北側(写真下側)には、法面の上が学校のグラウンドとなっており、建て替えの際にもこちらに寄せて校舎が立つ可能性はほぼなさそうな状況です。という事は、南側の採光が安定して確保できそうな立地でした。写真左側(西側)は木造2階建ての少々古い賃貸アパートがあります。敷地へのアプローチは写真左上方向から、「かなり急な坂」を上り、ここに接道しています。

南北方向の大きな地形の流れ
「1/50敷地模型」を北西側、アプローチ側から見る

手前の坂(斜路)を上って、敷地にアプローチします。北側の隣地よりも一階分ほど地盤が高く、それにより、北側に開けた眺望が得やすい状況でした。アプローチの坂の道路幅が細く、その前に曲がり角を考慮すると、搬入路は「2t車程度が精いっぱいかな」という気がし、クライアントと一緒に敷地を下見した際には「その分の多少の工事費のUPの懸念」はお伝えしました。

「1/50敷地模型」を北側方向から見る

こちらの隣地も3m以上高低差があります。あとで調べると、北側(この手前の面)の擁壁は古く、ここに荷重が掛かる設計にしてしまう、擁壁まで作り直さなければならない状況でした。限られたコストを有効利用しようとすると、「この擁壁に住宅の荷重を掛けない設計」が合理的なコスト配分につながるということが分かりました。逆に東側の擁壁は、東日本大震災後に仙台市が擁壁を作り直したらしく、かなり本格的な擁壁が入っていました。(なかなか民間では作らないような過剰とも言えそうな擁壁です。調査を進めると、こちらには荷重を掛けても大丈夫であることが分かりました)

「1/50敷地模型」を西側の上方向から見る

写真右側は学校敷地(テニスコートとグラウンド)であり、テニスコートがあることで喧騒からも学校からの視線からも距離が置けています。

クライアントは、現在この近所で生活しており、このエリアが気に入っていました。また、「市内中心部に向かって眺望が良い」という事もこの敷地を選択したポイントでした。私たちは当初から「眺望を取り入れた住宅」を提案することにしていました。

ご家族は、小さい兄妹との4人家族で、個室で過ごすことはあまりなく、家族で一緒に過ごすことが多いとのことでした。また、在宅で仕事をしている方で、仕事部屋が欲しいとのことでした。要望としては「木や自然素材を使った住宅」を好まれていました。

以上 2019-07-28 筆


スタディのはじまり

ここでもまた、お詫びをしなければなりません…。m(__)m
初期の1/100スタディ模型が、やはり紛失(というか、収拾がつかなくなり多分大掃除の時に捨ててしまっています…)しており、メイン担当の花沢と記憶をつなぎ直しながら、記述してゆきます。

最初のプレゼンまでにあれこれと悩んで作業をしていたのですが、最初のプレゼン前に作ったスタディ模型としては、これらの模型しか残っていませんでした。

上:記憶を辿ると(と言っても花沢の記憶に多くを頼っていますが…)、敷地東側の仙台市が整備した擁壁についての詳細は「不動産資料」に添付されていたのですが、敷地北側の擁壁については「古すぎて何の資料もない」ことが分かってきました。この擁壁を作り直すとかなりの工事金額が加算されることになり、コストオーバーになってしまいます。

そこで、最初期の検討としては、「擁壁に住宅の荷重を掛けない設計」として、「コストコントロールをする上での根拠資料づくり」に重点を置いていました。上の模型の敷地の上に「何色かの点線」が描かれていますが、「擁壁に荷重を掛けないための高基礎とした場合の根切深さ」を表示したものです。この点線に深く干渉すればするほど、基礎の工事費が上がってしまう事になります。そのような検討作業により、「凡そどのような配置計画が良さそうか」に見込みを立てて行っています。

上:上の模型を南側から見た写真です。これを見ると、すでにこの住宅の提案の柱である『採熱室』らしきものがあります。

(私も花沢も)検討を始めて少ししてから、「温熱環境についての提案を中心に据えた住宅」をクライアントに提案したように思っていたのですが…、記憶違いの様です。多分、擁壁についての資料集めなど基本的資料の整理に結構な時間がかかり、そういったクライアントとのやり取りの中で、次第にクライアントのことなども分かりはじめていたのだと思います。クライアントは、様々な工学的知識も豊富で、技術的な幅広い専門知識を要する仕事についており、在宅で仕事をしており、ということが次第に分かりはじめ、「温熱環境をテーマにした住宅に取り組みたいと考えているが、興味を持って頂けるかどうか」相談をしたのだと思います。そうして、了解を得て、環境工学研究者である小林先生と何度かやり取りをし、このような提案をしたようです。
(模型の残骸を辿り、記憶をつなぎ合わせると、多分そうです…)

また、仙台市の気象台が近くにあることも、このプロジェクトを「環境配慮型住宅プロジェクト」とすることの大きな動機でもありました。仙台市気象台は、この敷地から視認できるひとつ向こうの小山の頂上にあり、そこで計測されている気象データは、ほぼこの敷地に当て嵌まります。そういった膨大な気象データの蓄積をそのまま検討に使えることは、大きなアドバンテージになります。

特に「風」を利用した計画としようとすると、この敷地の特性は尚更、活かされそうです。風は、上空には気象台の観測データ通りの吹いていても、微地形(周囲に建物がどう建っているかなど)に左右されます。しかし、この敷地は北斜面の中腹にあり、少し高さを確保したつくりにすれば、「上空に吹いている気象台の観測データ通りの風」を捕まえることが出来ます。

「仙台気象台の観測データをそのまま設計に反映できる」ことも、「環境配慮型住宅」を計画する上でのこの敷地の大きなアドバンテージでした。「仙台気象台の観測データ」は、かなり膨大な計測資料の蓄積なので、それをきちんと使えば、データに基づいた快適性が実現しそうでした。

環境省 風況マップ

敷地周囲の過去20年にわたる風のデータをまとめたものです。「冬と夏の夜に西北西の風が吹き、夏の日中は東南東の風が吹く」というデータが得られました。この風をうまく捕まえれば、快適な通風を確保できます。

また、「風をどう建物に引き込むか」についてですが、一般的に私たちが創造するように「一方から風が吹いてくる風を受け止める窓を設け、その反対側に風を抜く窓を設ける」というよりも、「建物の周りを風が通り抜ける際に、風上の圧力が高まり、また建物側方や風下の空気圧が低くなることで、圧力差が室内の空気を引っ張り、風が起こる」というメカニズムにより、風が建物内を通ります。
(飛行機が飛ぶメカニズムとして「飛行機の翼に風が当たった時、その断面形状のせいで、片側が負圧となり、浮力が生じる」という説明がなされますが、それと同じ理屈だそうです…)

風を通すための「窓の設け方」については、そのことに留意して窓を設ける必要があります。

そうして、最初のプレゼン時には、以下のような提案を行っています。


最初の提案

「最初の提案」の概要については、ひとつ上の模型写真を見てもらった方が分かり易いかもしれません。提案のポイントは、

  1. 擁壁工事を発生させない配置計画
  2. 北側の眺望を大きく取り込んだ生活
  3. 敷地の特性を活かした「環境配慮型住宅」
    1)北側斜面に位置する敷地ですが、(眺望の無い)南側からの採光が十分に見込めるため、冬季に採熱し、暖房負荷を軽減する。
    2)仙台気象台のデータ通りの風を捕まえ、快適な通風を得ること。そのために、生活の中心となる部屋を2階に配置すること。

でした。

南側からの写真
南側上方向から見る

上:南側の「採熱室」の様子です。採熱室としては、冬季にしか使用しないので、それ以外の3シーズンは、ショートカット動線として使用する提案としています。こうしたアイデアは、最後までほとんど変わっていません。

クライアントからは、了承をいただき、計画を進めることになりました。


その後の検討体制について

クライアントとも正式に「設計監理契約」を結んで検討作業を進めることになりましたが、環境建築の設計を進めるうえで、環境工学の専門的な知見の提供を受ける必要がありました。そこで、環境工学研究者である小林光先生(東北大学大学院工学研究科 都市建築学専攻サステナブル環境構成学分野 准教授)と相談し、国立大学法人東北大学と弊社(都市建築設計集団/UAPP)との間で「共同研究契約書」を取り交わして、正式に進めることになりました。

このプロジェクトは「暗中模索の中で試行錯誤」しながら進めていますが、このような体制のもとで、検討を進めています。


その後の検討

大変申し訳ないことに、また、この後しばらくの検討内容が紛失してしまっています。m(__)m
…おぼろげな記憶を辿ると、
…しばらくは「最初にプレゼンした案」を元に検討を進めていましたが、しばらくして、案を変更することになったように記憶しています。記憶を掘り起こして整理してみると、「西側隣地アパートからの見下ろす視線が気になるため、配慮して欲しい」という要望をクライアントから頂いたことと、(この時期の物価動向を分析すると)「最初にプレゼンした案」では少しコストオーバーしそうであり、床面積を減らそうという事になったこと、が理由だと思われます。

しかし、この形をどういう形に納めるかで、かなり花沢と苦労し奮闘したような気がしますが、何も、その痕跡が残っていません…。

先ず最初から、検討中に話し合ってきたこととして「(敷地の最大の個性である)長く急な坂道を登って来た登頂感(てっぺんに上った時の爽快感)を住宅の中に取り入れたい」という事がありました。そういう空間体験は、建築空間をつくるうえでの重要な要素です。

完成後にオープンハウスを行った際に、(暑い日だったという事もあり)見学に来てくれた同業者の多くは、坂道を上りダイニングまで登り切って、「達成感があるなぁ。風が本当に気持ちいいなあ」と言ってくれていました。(こうしたことは、すべて計算の上で計画します)きっと、この住宅に遊びに来る子どもたちは、こうした空間体験を心に刻み付けてくれると思います。

その「空間体験をどう建築化するか」は、この住宅を考えるうえでの大きな柱となっています。

もうひとつは、当初からの大きなコンセプトである「環境配慮型住宅」として、温熱環境を中心に据えた住宅をどうつくってゆくか、でした。これについては、小林先生と相談し、当初から凡その断面構成を想定していたように記憶しています。

「そのふたつの矛盾するコンセプトをどう整理し、共存させるか」が最大の問題だったのですが、その成立には、かなり苦しんだようです。花沢の記憶では「(かなりうまくいかなかった検討の末に)突然手島さんがこの模型(下の模型)を持ってきた」とのことでした。

たしか、「熱取得する断面構成のダイニングのある東側(下写真で左側)」と「坂道に対応した西側(下写真で右側)」で、『違う断面を「がしゃん」とぶつけて、その矛盾というか葛藤を建築空間的な面白さにして処理したらどうだろう』と言うような話をしていたように思います。

「それぞれの理屈が成立しており、矛盾するような状況の中で、それぞれをどう共存させて成立させるか」は、今の時代の建築の世界の最大の関心事だと思います。(モダニズムの時代には「ひとつの精神の元に、ひとつの肉体が宿っている」ことが「美の中心的な考え方」でしたが、「多様性」「多様な主体の共存」を模索している現代では、「モダニズム的美意識」はちょっと古臭いのです。残念ながら「ひとつの精神の元に、ひとつの肉体が宿る」ことが健全だとする美意識は、「多様であることを排除しまう論理」に直結してしまいます。LGBT問題や環境問題、多様性を認め合う社会を模索している現代社会では、そのような意識の上に、美意識も変遷しつつあります)

「そんな面倒臭いことを考えながら、ちゃんと仕事ができるんか?」と言われそうですが、皆さんも月を見上げて「千年前のひとも同じ月を見上げているんだなあ、違うのはアポロの足跡がついてしまったことくらいか」とか、「でも、かぐや姫がそこに帰ることを想像してワクワクしていた千年前と何が違うんだろうか」とか、日常生活を送りながら想像すると思いますが、私たちも専門分野を通して同じように考えてしまうんだと思います。

すいません。話が逸れてしまいました…。

しかし「様々な要求をどう建築の形としてまとめるか」は、(大変だけど)建築空間を考える上での最大の見どころではあります。

※ここからはまた、1/100模型に戻ってのスタディです。

ここから、2016-11-05案

↑ 建物の一部が、少し高基礎想定部分に掛かっていますが、「ここは少し高基礎にして対応する方がトータルな建築としては良いのではないか」という事になり、(たしか)その分のコストUP工事費を概算し、クライアントに相談しました。

↑ この模型をこうしてみると、かなり潰れてしまっていますね…。
すいません。保管が悪いですね…。

よくよく模型を覗いてみると、この住宅の一番良い場所(最終案でダイニングとなっている場所)にはリビングが配置されています。

ここまで、2016-11-05案
ここから、2016-11-07案

少し屋根の掛け方を模索していますね。

↓ 実はこの模型から、「二枚の採熱壁と、採熱室があること」と、そして「採熱室の採熱壁の上部から、南の直射光を家族室(最終的にダイニングになった場所)に取り入れること」が模型化されています。採熱室を無駄にせず「ショートカット階段室」と兼ねることも含めて、「採熱」についての考え方が整理されてきています。

また、このあたりの模型から、「主たる家族室」として、リビングでなく、ダイニングキッチンを捉え、一番環境の良い場所にダイニングキッチンを配置しています。クライアントから「今の生活ではリビングはほとんど使っておらず、ダイニングキッチンでいつも過ごしている」との話が幾度かなされ、そのような変更を行っていたように思います。

ここまで、2016-11-07案

「採熱室」自体については、それ自体が新しいアイデアという訳ではありません。環境建築の教科書的な本には必ず「トロンブウォール」等のこうした仕組みが載っており、こう言う考えに基づいています。(良い参考ページがあったのでリンクしておきます)これを見ると、今回の仕組みは『「ロックヘッド」と「トロンブウォール」を組み合せて、蓄熱素材を最新のものに入れ替えたシステム』という感じだと思います。

「採熱室」に設ける「採熱壁」の素材には、熱を蓄えるために「熱容量の大きな素材」を使う必要があります。コンクリートの壁や、レンガ積みなど、様々な可能性を検討しましたが、(建設コストや狭い道の奥に敷地が立地していることを加味すると)全体を「木造」で構成することが凡そ見えてきていました。そうなると、「左官工事による塗り壁」が最も適しているように思えました。その上、更に熱容量を増加させ、室温を安定させる効果を生むために『「PCM(潜熱蓄熱材)」という特殊材料を塗り壁に混ぜ込んで使用』することにしました。

潜熱蓄熱材とは? : →あとで追記します。m(__)m

今回は、潜熱蓄熱材のメーカーである「株式会社JSR」さんから、材料の無償提供を受け、使用しました。(竣工後の計測データを提供する代わりに、材料の無料提供を受ける契約を、弊社との間で結びました)
PCM(潜熱蓄熱材)は、土壁に混ぜ込んで、左官壁に使用する「砂状の製品」と、床下に設置する「パックに入った製品」の二種類の提供を受けています。

ここから、2016-11-15案

また、この模型くらいから、採熱壁の素材に気を遣っていることが分かります。全体に、木材や土など、自然素材を使って建築をまとめようという雰囲気が出来てくているのだと思います。

ここまで、2016-11-15案
ここから、2016-11-??案

まだ、屋根の折り方に試行錯誤が見られます。

ここまで、2016-11-??案
ここから、2016-12-08案

↑ このスタディ模型の屋根部分に「ラクガキ」がありますが、屋根架構にについて、「どう斜め梁を組むか」について、花沢と議論した痕跡だと思われます。
上写真の「左側の屋根の(下方に伸びる)アーム部分の屋根」については、どうしても木造の架構で組むことが出来ず、このあと断念することになります。
また、このころは、北側に大きなテラスをつくることを想定していました。

ここまで、2016-12-08案
ここから、2016-12-??案

この模型になると、「坂道を登り切り大きな壁から室内に入った」あとの内部空間の作り方については、凡そ整理されています。
また、この模型から、ダイニングテーブルのつくり方として「掘りごたつ式」が採用されています。蓄熱室から取り入れた「熱」を、身体の近くに蓄熱し、身体の近くに排熱するために、家具と建築が一体になった形がより相応しいと考えたように記憶しています。

このスタディ模型を見ると、採熱室のとり方や、無駄のない動線のとり方、各部屋の構成など、「平面計画に関わること」や、どういう「建築空間を目指すか」について、凡その見込みが立ってきています。
このあと、1/50模型に検討が切り替わっているのですが、こうしてみると「この建築空間を、木造在来工法という伝統的な工法を使って、実際にどうやって魅力的につくってゆくか」に検討課題が移って行っているように思います。


1/50スタディ模型での検討

さて、ここまで「1/100スタディ模型」で積み重ねてきた空間イメージを「どうやって現実的に構成可能な空間に翻訳しつくり上げてゆくか」が、もうひとつ、建築設計者に問われる能力でしょう。そんなことで、模型は1/50に移行します。
このスタディ模型では、「凡そこんな感じで考えたらえんででないん?」というくらいのつくり方です。しかし、うちの優秀なスタッフとの間では、こんなのでも会話が成立します。

上の写真を見ると、『「採熱壁」と「リビングから下階に降りる階段」「リビングからダイニングに上がる階段」をどうつくりたいか』について、かなり核心的に分かってきていると思います。そして、そんな動線の構成も、この二枚の屋根の構成も、すべてがこの敷地の特性とクライアントのニーズから導き出された大きなコンセプトの流れに沿っています。大きな「こんな風に3つの動線がそれぞれに主張しながら交差していると美しいでしょう」と模型が雄弁に言ってますね。

(「1/100スタディ模型」の途中からそのような検討を始めていますが)「採熱室」とダイニングを区画する「採熱壁」を天井まで立ち上げると、ダイニングの「昼光利用」を妨げてしまうので、上部から光を取り込める工夫をしています。

※昼光利用:昼の明るい光を室内に取り込み明るく健康的な空間をつくること。(直射光でない)北側からの採光も魅力的で、熱の影響を受けないので、うちの事務所でもよく利用しますが、(小林先生曰く)天空光(直射光でない太陽光)は、光の色が少し青白く、温かみに乏しいとのこと。北側に面するダイニングに自然な色彩感を取り入れるため、南からの光を取り入れています。

ここまで、2016-12-21案
ここから、2016-??-??案

この「1/50スタディ模型」ではひとつ前の模型でのスタディを更に進め、「どのように木材を組むと構造的にも合理的で、美しいか」を検討しています。「少し普通の工法より複雑ですが、在来軸組み工法のテクニックで十分に作れそうだなあ」と考えていたのですが、現場の段階では大工さんたちはかなり苦労したようです。(優秀な大工さんたちで良かった!)

しかし、「構造強度的な検証」については、このような形状になると「壁量計算(木造在来工法に対応した略式な計算方法)」では対応できず、優秀な構造設計者のサポートを受けなければ実現できません。うちの事務所では数人の構造設計者と組んでいて、そのプロジェクトに応じて「どの構造設計者が適任か」を考え、委託します。今回は寺戸巽海さんという佐々木睦郎事務所(せんだいメディアテークの構造設計者)出身の優秀な構造家に依頼しました。

ここまで、2016-??-??案
ここから、2016-??-??案

この模型では、西側の外壁から内側の「こどもスペース」や「リビング」のつくり方がかなり整理されています。
「玄関を入って、ズドンとそのまま階段で半階上がりリビング」そして「リビングから大きくダイニングにつながる」、そして「ダイニングに辿り着くといつの間にか別の断面構成の空間に自然に辿り着いている」、そして「その断面構成は環境共生型住宅としての大きなコンセプトを担っている」という三段構成が明確で、しかもひとつの空間にうまくまとまっています。屋根の構成ともうまくシンクロする構成ですよね。こうなると俄然、「建築空間としての質」が違ってきます。

※このあたりの記述は同業者でないと分かり辛いかもしれません。…すいません。

また、このあたりの空間の整理にあたり、スタディを始めて以来ずっと南側に配置していた「仕事室」をエントランスの北側に再配置しています。それに伴い、ここに配置していたテラスも取り止めています。

このあたりのスタディの成果で、「坂道を駆け上る空間体験を、建築空間に引き込む」ことに成功していると思っています。

ここまで、2016-??-??案
ここから、2016-??-??案

次いで、1/50スタディ模型の、最後の模型です。実施設計を終えるころ(終えたあと?)につくり、図面の内容をチェックします。
ようやくまとまりました。

最終的にこのような「木造の架構」となりました。出来上がった空間に入るとかなりつくり込まれた建築空間に仕上がっています。普通はこんな架構はやらないですよね。
…また、北側の擁壁への加重を避けるために高基礎とする部分も最小限にとどめています。


1/30模型

1/30模型は、工事の段階で「どうつくるか」を施工者と打ち合わせしたり、クライアントに空間の最終確認をしてもらうための模型です。スタディ模型ではないのですが、仕上げ材料を貼ったりはがしたり、或は現場に持ち込んで施工者と打ち合わせするので結構ボロボロになってしまいます。

↑ 「坂道に面した外壁面」は、自然素材から選択し、左官壁としました。山形の「原田左官工業」という特殊な技能を持った左官屋さんにお願いすることになりました。
また、(上の写真の左下に位置する)仕事部屋のつくりも「左官壁で塗り固めたほら穴的空間」としています。

さて、駆け足でここまで来ましたので、ようやく、この住宅の完成した姿をお披露目し、そののちに、「環境配慮型住宅 試考」として、データ計測した結果等をまとめます。

…しかし…、さて、どうまとめようか、何も決まっていないので、頭を抱えています。

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