MYS 屋根と縁側の家

ファーストコンタクト

2010-09-23

クライアントより、突然に電話を貰い、急遽事務所にて打合せを行った。
おおよその話は掴んだものの、取り合えず敷地を見て考えて見なければ何ともいえないことを伝え、先ずは現地調査とそれに基づいた検討を行わせてもらうことにした。


現地調査

2010-09-24

日本建築学会の東北建築賞に向けての発表準備(「連続し、寄り添う、ハコ/ニワ」)の合間を縫って、早朝7時に現地調査を行った。
 
具体的な「敷地条件」や、「要望」は、以下にまとめました。

敷地

1/100 敷地模型

模型写真、右下側が南。左上側が北側。

1/100 敷地模型

模型写真、左上側が南。右下側が北側。

敷地南西側からの写真
敷地北西側、交差点からの写真

敷地は仙台市北部の新しい住宅地に位置しています。周囲はポツリポツリと住宅が建ち始めているという状況でした。この敷地もまた、今後周辺状況がどう進展してゆくのか図り辛い敷地でした。
敷地は南北方向に少し長い長方形で、北側と西側の二方向に道路に接し南側と東側で隣地に接しています。また、その隣接敷地は双方共に更地です。
また、この地域では地区計画として勾配屋根を持った住宅としなければなりません。

要望

要望をすべて羅列すると……、

また、この時期にちょうど引き受けていた、東北大で非常勤講師をしている二年生の設計課題に次のように銘打って出すことにしました。

「東北大学二年次 設計課題(建築設計A2)」

課題は、仙台市郊外の住宅地に、若い夫婦のための住宅を設計することです。
このプロジェクトは、現在私たちの事務所で設計監理契約を結んで進めている計画です。現在のスケジュールでは、来年の1月くらいに基本計画を終え、実施設計に入る予定です。
何故このプロジェクトを皆さんの課題にしたかというと、理由はひとつです。あなたたちが苦心してクライアントの生活を考え、建築を構想し、広がるアイデアをひとつに集約して課題を作成するのと同じように、わたしたちもこのプロジェクトの中で理想の建築を模索し、ひとつの結論に辿り着きます。あなたたちが課題を発表する時、私も同様に皆さんにわたしの成果をお見せするつもりです。
誰が一番優れた建築に到達できたか、競い合い、自由に議論しましょう。
皆さんにお出しする課題は、敷地条件も、お客さんの要望も全く同じです。また、追加の資料も、必要であれば差し上げます。

関連サイト「JIA宮城ブログ


スタディ

2010-09-24~

先ずは、1/100敷地模型を作ってもらい、また、先ずは予算から想定して割り出した建築のボリュームをつくってもらいました。
※ここでのすべてのスタディ模型に共通ですが、3つ横並びのスタディ模型の方向は以下の通りです。

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次いで、それに「屋根を乗せてみよう」ということになり、あまり深く考えずにどんどん勾配屋根を載せて見て貰います。

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発泡スチロールのボリュームから1mmのスチレンペーパーに素材を変えて、どんどん作り続けてもらいます

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このあたりで、敷地に合わせた形にするには、敷地に接した二方向の道路に開く方が良いと思うようになりました。他の二方向の隣地に接した「辺」は、隣地に何も建っていない現在の状況ではうまく調和させたりコントロールしたりということが難しいと思いました。
敷地北側は、駐車場のための入口が設けられ、この地域の地区計画ではそれについて簡単に変更することは出来ませんので、「敷地北側についてはその上空に向けて大きな開口を持つ」ことになりました。
ということで「北側上方と西側水平方向の二方向にうまく開いた大きな屋根」を目指して形のスタディを繰り返しました。
以下の模型はすべて「北側上空の空」と「西側の水平線」に向けた開口部のスタディです。

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あとから振り返って考えると、このあたりのスタディは、最終案に最も近いです。
北側上空への窓と、西水平面の窓、そして南東側の中庭と3つの外部の関係性によって各部屋が配置されてゆく」というストーリィを考えていました。
ただ、入口の入り方が少し変わっており、クライアントも我々もこの入り方がすごく気に入っていましたが、様々な理由により、後々断念することになります。

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上の模型は個人的には一番気に入っていた「かたち」です。西側の水平面に向けた山型の大きな開口部が良いと思っていた。
ただ、水平面の大開口部には、欄間を設けなければ引き戸でフルオープンする窓が設け辛いとも考えた。

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このあたりは、すこしづつ、いろいろなプロポーションを変えながら、手探りで感触を探ろうともがいている感じですね……。

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第一回プレゼン

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上の35個の模型をすべて並べて、第一回目のプレゼンテーションをクライアントに対して行った。先ず一番気になったのが、わたしたちが自然に目指したこうした方向性がクライアントの志向にあっているかどうか、ということだった。
ご夫婦揃ってのプレゼンの結果は、大きな構成についてはすごく気に入ってもらいました。融資のスケジュールもあり、すぐに設計契約をして話を進める事になりました。

その後のスタディ

2010-10-01~

南側にあけた「中庭」が本当に良い選択なのか、それとも狭くとも南側に設けた庭に開口部を作ったほうが、内部空間の窓のバランスが良いのではないか、と考え、スタディをしてみる。

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結果としては、外形の単純さが失われ、良いものが得られなかった……。

設計契約を済ませ、本格的に体制を組んで作業に取り掛かった。
「北側上空の空」と「西側の水平線」に向けた大きな開口部という基本構成は見えていたが、そのふたつの要素を内部空間でどうつなげてゆくべきか、は全く見えていなかった。

クライアントからの要望である「段差のある楽しい内部空間」によってそのふたつを繋ぐのだろうと漠然と考えていたが、実際にやってみるとそんなに簡単にはうまくまとまらなかった。

※以下の模型は、内部のフロア構成模型を、上屋から取り出してお見せしています。

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作業当初はこのように斜めのラインに引っ張られたかたちをイメージしていた。

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……また、このころは「南中庭」ではなく、南側外向きに大きな窓を取る構成で考えているようですね。

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こうして、内部のフロア構成に斜めのラインを入れると、天井の斜めラインと呼応して、北側上空の大きな窓から月光が斜めに差し込むようなダイナミックな空間が出来上がると考えていました。

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上の模型は斜めのラインのコントロールに疲れ、一番単純な段差にしてみようということでつくったものです。しかし単純すぎて面白くもなんともなかったです……。

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また、突如として、最終案に近い形をつくってみる。何度かこのかたちの周辺を巡っており、ずっと気になっているのだが、何故かこれが最終形だとは気付かず、通り過ぎてしまう……。

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「いたずら気分で」、西側の開口部を少し南側に広げてみる。南側隣地も近く、南側に開口部を広げることに合理的な理由はなかったが、クライアントにはかなり気に入られてしまう。……しかし最終的には、構造的な難しさがネックとなり、ボツとなる。

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ひとつ前の模型を元に、屋根を分割してみる……

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このあたりの屋根の形は、どちらかといえば、「わたし」が強く思い入れしており、何度か最終案との間で揺れ動いている……。
この系統のかたちの良い点は1階から見た内部空間がかなりシャープな空間となること……。

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また、もうひとつ、この系統の形の良い点は、南東側の中庭が他のメインの空間と切り離されており、突然に「秘密の花園」的な出会いが生まれるのではないかと考えていました……。

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試しにつくってみたバリエーション。ぼってりしてあまり良くない……。

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写真では分かり辛いが、1階部分のフットプリント(配置概形)を南北方向に長い長方形としたもの。今までは基本的に正方形でした……。

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屋根の窓の向きを反対に向けてみた模型……

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このあたりは担当スタッフに何も指示をせずにつくってもらったスタディ模型……。この頃になると何をどうしてよいのか、全く迷ってしまっていました。これは、水平方向への開口と北側上空の開口を両方共に変えてみたもの。

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南側の中庭も斜めのラインに引きずられて……、

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このあたりからまた、気を取り直して指示をしてつくってもらったもの。クライアントの要望どおり、内部をスキップフロアで構成しようと考えていたが、どうにもうまく行かない……。わたし自身はこの屋根の形にこだわっており、それがうまく内部空間と整合性が取れない

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このあたりで、内部空間を構成する要素は単純な形の方が良いと気付き始めるが、そうした単純なボリュームを、屋根の斜めのラインにあわせて配置してみたもの。

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いま、こうして振り返ると、内部空間の構成も、この時点で最終形の原型が出来上がっているが、この屋根形状にこだわるあまりうまくまとまっていない……。

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屋根形状に合わせて、単純にするべき内部空間を菱形にしてしまったり……

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また、元に戻したり……を繰り返しています。

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でもまた、斜めにしたり……、

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……戻したり……
そうこうするうちに、この屋根形状が良くないと思い当たり、屋根の形を何度か前の案に戻して、検討し直します。

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このあたりはかなりいい感じの案になっていますが、どうしてもゴールを決めきれないストライカーのようになってしまっています。

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また斜めに引きずられ……

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そしてまたこっちに戻ってしまいます。

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この案には、かなり面白い部分があり、それは今見返しても分かるのですが、内部空間がどうしてもうまくまとまりません……。
これの面白さとは、「玄関」「中庭」「水平方向の開口部」「北側空に向けた開口部」のそれぞれが、それぞれに勝手な方向に向いていることであり、「そのバラバラさが散りばめられた内部空間とは一体どうだろう」と、想像すると、本当にワクワクするんです。
これはこれで良いものがあるんですが、多分、クライアントの要望である「ワンルーム空間」と「スキップフロア」とは相性が良くないんだと思います。
いつかまた、この感じの空間にチャレンジする機会があるといいなぁ、と思います……。

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この模型だと、よく内部が見えるが、この屋根形状に単純な内部ボリュームが合わさって、『「玄関」「中庭」「水平方向の開口部」「北側空に向けた開口部」のそれぞれに対応した空間が厳かに佇んでいる』ことを考えていました。

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この形に戻るのも何度目かですが、やっと、「この形と心中しよう」という気持ちになってきました。結局はシンプルにまとめなければ自分もスタッフも、クライアントも納得しないのだと気付き始めます……。

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スタイロ(青いカタマリ)でつくったL字型のボリュームで、1階を幾つかの空間に区分けする、というイメージ。

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玄関を入ってすぐの真上にV字型の切込みを入れているが、これは、玄関を入るとすぐに吹き抜けになっており、「上部と右・左三つの方向にいきなり空間が開かれてゆく」ことにしよう、と話していたもの。

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このあたりから、ボリュームの上は寝室にしようと考えている。クライアントの最初からの要望である「スキップフロア」はこの案には馴染まないのではないか、と思いはじめる。スキップフロアを実現すると、どうしてもシンプルにまとまらなくなる……。

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このあたりから、2階フロアに「40cm」ほどの窪みを作り、その中に寝室や図書コーナーなどの機能を持った「場」を作ってゆこうと考え始める。そうした方法のほうが全体にはシンプルなのではないかと……。

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このあたりの案は、単純な内部のボリュームに「窪み」や「スリット」があいていて、それぞれが収納や図書コーナー、寝室などの機能を全うしていることをイメージしていた。

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ちょうど、湯船に浸かるように、それぞれの「窪んだ」コーナーを使う、といったイメージ。窪んだ部分が書架になっていたり、ちょうど机に最適な高さになっていたり……。

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ここまでは、そのバージョン。
もうこのあたりでまとめるしかないのかなぁ、と思い始めていた……。良いような、良くないような、微妙なかんじがしていた……。
ここから、しばしのスタディについては、ここまでの思考が長かったのに比べて、「あっ」と、思いつき、すぐにそのままスケッチと模型にしてしまったので、残念ながら、その軌跡をたどるものが残っていません……。
ということで、結果だけ、ご説明します。

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上から見たところ。

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北側から、屋根を取って、見下ろしたところ。

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南側の「坪庭」に向かって、2階と結ぶ大きな階段を設けました。2階は寝室スペースであり、大きな階段は、図書コーナーとして使います。階段右側には、玄関から続く通路が設けてあります。
ついでなので、この模型の外観写真などを幾つか載せておきます。

study-model-97
study-model-97

その後、玄関の入り方について、幾つかスタディを行っています。いろいろと試してみたのですが、やはり、一番シンプルな形に落ち着きました。

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外装の素材・色についても、さんざん検討を重ねました。
したの赤茶色のものは、内藤廣さんの「ちひろ美術館・東京」のようなッ外装をイメージしていました。(わたしも)お客さんにも見てきてもらいました。

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下のものは、1/50模型。(ここまでは、1/100でした)

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下は、1/30模型。実施設計後に図面を元に作成しました。

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study-model-98
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study-model-98
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ついで、内部木部などの造作の詳細を詰めるために作成した1/20の詳細検討用の模型。
全体の半分だけつくりました。……でかいです。

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study-model-99
study-model-99
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以上、99個の模型たちでした……。

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